経絡治療とは|祐生堂はり灸マッサージ博多院

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東洋医学の疾病観について~経絡治療とは

経絡治療の定義

経絡治療とはすべての疾病を経絡の虚実状態として把握し、それを主に鍼灸でもって補寫して治癒に導く伝統医術である。これを随証療法(証にしたがって治療する法)ともいう。【日本鍼灸医学 経絡治療 基礎編(経絡治療学会編纂)】より

経絡治療は古代中国の五大書物「素問」「霊枢」「難経」「傷寒論」「金匱要略」に記されている思想・哲学・疾病観及び人体の生理・病理を基軸とし、日本の古代から江戸期において発展してきた伝統医術を昭和初期に復興・体系化したもので、日本人の体質に合った自然療法です。

以下は東洋医学にでてくる独特の考え方や用語を簡単に説明してみます。

東洋医学の特徴

■天人合一思想、陰陽論、五行論、臓腑経絡論

・東洋医学では、人は大自然(大宇宙)のなかの一つと捉え、 自然界の影響を受けていると考えます。そして人体(小宇宙)の生理・病理・疾病の発生なども同じ原理・法則で説明できると考えています。西洋医学では組織、器官はそれぞれ独立して異るものと捉えますが、東洋医学では異なった機能を持ちながらも全体として互いに繋がりを持った一つの自然(生命体)として捉えます。

・気血(きけつ)・臓腑(ぞうふ)・経絡(けいらく)等、独特の生理観・疾病観を持っています。

■心身一如の医学

・心と体は一体のものであり、人体の様々な機能は心と体の密接な関係によってなされると考えています。精神状態(感情)を病気の原因として重視し、同時に身体的な異常は精神活動に影響するともしています。

・病気の原因・症状・体質・精神状態などを総合的(全体的)に捉え、治療も全身的な調整に重きをおいて行います。この事から東洋医学は「病気を診るのではなく病人を診る、病気を治すのではなく病人を治す。」と言われています。

・病名診断ではなく、患者を全体的に捉えて得られた結果を「証(しょう)」と表現し、治療方針を示します。この証に従って治療する事を「随証療法」といいます。

■治未病

・東洋医学は「未病を治す」ということを理想としています。未病とは半健康な状態を指し、この状態を放置しておくと、器質的な病変に基づく本格的な病気に発展するのです。「未病を治す」とは半健康な状態を健康なレベルに回復させる事を言い、これは現代で重要視されている予防医学に相当します。また、東洋医学では健康を維持するための食養・呼吸法などの様々な養生法が古典書物には記されています。鍼・灸・あんま・気功・漢方薬・薬膳などは、健康の保持増進、疾病の予防に大いに寄与しているのです。

陰陽論、五行論

■陰陽論

陰陽論とはこの世のすべての物質や現象を陰と陽に分けて把握しようとする考え方です。この考え方は相当古くから存在し、その考え方は易学からきているといわれています。

<陰陽の分類>

太陽 晴天 春夏 上半身 四肢 陽経脈 経絡
雨天 秋冬 下半身 身幹 津液 陰経脈 臓腑

<陰陽の働きと性質>

温める 動かす 和らげる 乾かす 開く 発散 出る 上る
冷やす 鎮める 堅める 潤す 閉じる 収斂 入る 下る

・陰陽は一方が強くなれば一方は弱くなる。
・陰が極端に強くなると陽が現れ、陽が極端に強くなると陰が現れる。
・陰陽は常に交流、循環してバランスを保っている。
・相対する相手が変われば陰陽も変わる。

■五行論

五行論は陰陽論が発展したのもで、自然界のものを五つの要素(木・火・土・金・水)に分類した考え方です。そしてこの世のすべての現象はこの五つの要素の相生、相克関係によって説明できるとしています。

・相生(そうせい)関係
木は火を生む、火は土を生む、土は金を生む、金は水を生む、水は木を生む
・相剋(そうこく)関係
木は土を剋す、土は水を剋す、水は火を剋す、火は金を剋す、金は木を剋す

五行のそれぞれの要素に配当されている自然界の物を一覧にしたのが「五行の色体表」です。
この表は東洋医学の世界では診断・治療から養生にいたるまで幅広く応用されています。

<五行の色体表(1部)>

五行 五色 五季 五臓 五腑 五精 五志 五主 五官 五華 五味
小腸 血脈 面色
土用 意智 肌肉
大腸 皮毛
膀胱 精志 恐驚

気(き)、血(けつ)、津液(しんえき)

・東洋医学は「気の医学」と言っても過言ではありません。私達の身体には「気」が存在し、適度に循環・発散しながら健康を保っています。
・気は身体における生命活動の原動力となるもので、身体を陰陽に分けた時の陽の部分の代表です。また、気は血や津液を巡らせ、身体各部を潤し養っています。尚、「気」は部位やその主となる働きによって呼び方が変わる事があります。

先天の気
(せんてんのき)
両親から受けた精を「先天の精」といいます。これは「腎」に宿り「心」の陽気と合して「先天の気」となります。これを「命門の気」と呼ぶ事もあります。「先天の気」は「後天の気(飲食物から出来る気血津液)」を生み出す原動力となります。

後天の気
(こうてんのき)
飲食物が脾・胃で消化吸収されたものを「後天の精」といいます。この「後天の精」と「肺」で取り入れられた天の気とが合して気血津液が造られます。これを「後天の気」といいます。後天の気には宗気・衛気・栄気・血・津液などがあります。

宗気
(そうき)
呼吸の原動力となる気。肺が気を巡らせる元となる気
衛気
(えき)
常に全身を循環している活動的な気、陽気の事。衛気は各臓腑に行けば呼び名が変わります。例えば胃に行けば胃の陽気、肺に行けば肺気、腎に行けば命門の陽気と呼び名が変わります。
衛気は昼間は適度に陽気を発散し、外気の変化に対応しながら全身を巡っています。そして夜になると体内に入り各臓腑を巡ります
栄気・血
(えいき・けつ)
栄気は血を巡らす気の事。血は身体各部に栄養を与え、潤し養います。また、血は物事を遂行する力の元となります
津液
(しんえき)
津液は体内の正常な水分の事。津液は血にも含まれており、身体各部を潤す働きがあります

虚実(きょじつ)、寒熱(かんねつ)、補寫(ほしゃ)

■虚(きょ)と実(じつ)

1)虚とは正気の不足した状態で、不足・不及・損小などとも表現され、いわゆる機能低下の事を指します。これはの気の働きの弱りであり、また形質や血・津液の不及した状態の事もいいます。
虚には精気の虚、病理の虚、病症の虚があります。
・精気の虚とは各臓(肝・心・脾・肺・腎)が持っている精気(魂・神・意智・魄・精)が虚した状態の事をいいます。
・病理の虚とは、各臓が蔵している気や血や津液が不足した状態の事をいいます。
・病症の虚とは、現れる諸症状の虚の事をいいます。

2)実とは陰陽の気の異常亢進の事を指し、有余・大過・盛などとも表現されています。また形質が旺盛になった状態、あるいは物や気が停滞・充満した状態の事をいいます。
実には邪実、旺気実、病症の実があります。
・邪実とは正気の虚に乗じて侵襲した外邪(風・熱・暑・湿・躁・寒)によって、気血が身体のどこかに停滞・充満した状態の事をいいます。
・旺気実とは、陰陽のバランスの乱れにより、気血が相対的に旺盛になった、あるいは停滞・充満した状態です。
・病症の実とは、現れる諸症状の実の事をいいます。

■寒(かん)と熱(ねつ)

寒熱は症状の性質を見分ける基準で、この基準を用いて各臓腑の陰陽の盛衰の程度を知ります。
東洋医学では、健康状態を判断するのに、人体の陰陽のバランスを重視します。陰陽のバランスが乱れると、多少なりとも寒あるいは熱の性質をもつ症状が現れます。陽が旺盛になれば熱症状、陰が旺盛になれば寒症状が現れるといった具合です。熱証は臓腑の機能の亢進を反映し、寒証は臓腑機能そのものの低下や衰退を表しています。

■補(ほ)と寫(しゃ)

補寫(ほしゃ)とは東洋医学の疾病観に基づく鍼灸治療に於いて、治療の方法、手法の事をいいます。
端的に言えば「補」は不足を補う事、「寫」は有余を取り除く事をいいます。東洋医学では全ての病気を「陰陽のバランスの乱れ」として捉え、その「陰陽のバランスの乱れ」による虚実状態を調整する事が治療だと考えています。一般的に虚や寒に対しては補法の手技を施し、一部例外もありますが実や熱に対しては寫法の手技を施します。

臓腑(ぞうふ)、経絡(けいらく)、経穴(けいけつ)

■臓腑(ぞうふ)

臓腑とはいわゆる一般的な臓器の事を指します。臓と腑は陰陽(表裏)の関係にあり、腑は表裏関係にある臓の支配と脾の支配を受けています。また、各臓腑は五行の相生・相剋の関係にあります。

各臓腑の働きを簡単に説明してみます。

肝の持つ精気は魂。春に旺気する。脾胃で造られた血は肝に蔵され、必要に応じて血を全身に送る。肝は胆と表裏関係にあり、目・爪・筋を支配する。精神作用は怒に関係する。また、酸味は肝に入る。肝は血を蔵するので肝虚=血虚となる。また肝は腎の津液を必要としている。
心の持つ精気は神。夏に旺気する。心は小腸と表裏関係にあり、血脈・舌・色を支配する。精神作用は喜に関係する。また、苦味は心に入る。心に虚はない、但し他の臓腑から発生した寒熱の影響を受けることはある。
脾の持つ精気は意・智。土用に旺気する。脾は胃で水穀(飲食物)を消化吸収して気血津液を造りださせている。脾は胃と表裏関係にあり、口・唇・肌肉・四肢及び各腑を支配する。精神作用は思に関係する。また、甘味は脾に入る。脾には気・血・津液ともにあるので、脾虚には脾の気虚・血虚・津液虚がある。また脾はその働きを充分に発揮する為に心の陽気(心包の陽気)を必要とする。
肺の持つ精気は魄。秋に旺気する。肺は気を蔵し全身の気の循環を主っている。肺は大腸と表裏関係にあり、皮膚・毛・鼻を支配する。精神作用は憂に関係する。また、辛味は肺に入る。肺は気を蔵するので肺虚=気虚となる。
腎の持つ精気は精・志。冬に旺気する。津液を蔵し、下焦(下半身)を安定させる。腎は膀胱と表裏関係にあり、骨・耳・髪・二陰(大小便の出口)を支配する。精神作用は恐・驚に関係する。また、鹹味(塩辛い)は腎に入る。腎には陰気の働きと津液を蔵する働きがあるので、腎虚には腎の陰気の不足と津液の不足がある。また腎の津液は肺気の力によって動かされる。
心包 心包は心包絡(しんぽうらく)ともいい、心をまとい君主である心の変わりにその働きを代行している。心包の陽気の事を相火といい、この相火が下焦に降りてきたものを「命門の火」という。
中正の官と言われ、五臓六腑の中正を保つ。また決断力に関係する。
小腸 小便を膀胱に送り排泄する作用に関係している。
脾の命令を受けて飲食物より気血津液を作り出す。
大腸 大便の排泄に関係している。
膀胱 腎の陽気(命門の火)の影響を受けて小便を排泄する。
三焦 上焦、中焦、下焦があり、その部位において主に陽気(原気)を主っている。

上記以外に「奇恒の腑」という物があります。

・奇恒の腑・・・脳、髄、骨、脈、胆、女子胞

これらはそれぞれ独立した働きを持っていますが、それぞれ関連する臓の影響を受けます。

脳・髄・骨・・・腎
胆・女子胞・・・肝
脈・・・心、心包

■経絡(けいらく)

①「経絡」とは気血津液が体表及び体内をくまなく流れるルートであり、本流にあたる「経脈(けいみゃく)」と、経脈から枝分かれした支流の「絡脈(らくみゃく)」を合わせたものを「経絡」と呼んでいます。
経脈には各臓腑と繋がっている「正経十二経脈」と、独自性のある「奇経八脈」があります。

②経絡には気・血・津液が流れていますが、気・血・津液は以下の様な順番で体表及び体内(各臓腑)をくまなく巡っています。

→ 手の太陰肺経 → 手の陽明大腸経 → 足の陽明胃経 → 足の太陰脾経 → 手の少陰心経 → 手の太陽小腸経 → 足の太陽膀胱経 → 足の少陰腎経 → 手の厥陰心包経 → 手の少陽三焦経 → 足の少陽胆経 → 足の厥陰肝経 → 手の太陰肺経

③経絡は単に気・血・津液が流れるルートという事だけではなく、各臓腑とは陰陽の関係にあり、臓腑の機能を充分に発揮させる為には必要不可欠な存在です。何らかの原因で各臓腑の働きが悪くなると、それぞれの臓腑が支配している部位の変調が現れますが、その影響が同時に経絡の変動としても現れます。故に経絡の変動(陰陽のバランス)を調整する事により、各臓腑の機能を調整する事が出来るというわけです。

■経穴(けいけつ=ツボ)

経穴(けいけつ=ツボ)は体表上の異常点、反応点であり、治療点です。経穴は経絡上に存在する「臓腑経絡を調整する役割のあるツボ(要穴といいます)」と経絡上に存在するが「主として特定の症状に有効なツボ」、奇穴・阿是穴といって経絡上には存在しないが「ある特定の症状に有効なツボ」があります。これらを数えると1000を超えると言われています。これらのツボは何れも治療点となり重要ですが、やはり病の本質にアプローチする「臓腑経絡を調整する役割のあるツボ」(五行穴、五要穴など)が特に重要だと思います。これらのツボは主に手足末端に多く存在しますが、現代医学でも手足末端への刺激は、自律神経に影響を与えやすいという事が分かっています。

病因(病気になる原因)

■素因(体質)
肝虚体質

肝実体質

脾虚体質

肺虚体質

腎虚体質

■内因(感情)






憂・悲

恐・驚

■外因(外気の変化)

■不内外因
・飲食の過不足・食傷

・労倦(精神労働・肉体労働)

・房事過度(過剰な性交渉)

・外傷(怪我・転落・手術・事故)

・産前産後

四診法(東洋医学の診察方法)

■望診

■聞診

■問診

■切診
・腹診

・背診

・切経

・脈診

■「証」の決定
・東洋医学では全ての疾患・症状を陰陽五行、臓腑経絡に結びつけて考えていきます。
そして上記の診察方法によって導き出された結果を「証:しょう」(東洋医学的診断名)といい、その「証」に基づいて治療する事を隋証療法といいます。

基本証
肝虚証、脾虚証、肺虚証、腎虚証

証の種類
肝虚熱証、肝虚寒証、脾虚陽明経実熱証、脾虚胃実熱証、脾虚胃虚熱証、脾虚寒証、肺虚陽経実熱証、肺虚寒証、腎虚熱証、腎虚寒証、脾虚腎虚寒証、脾虚肝実熱証、脾虚肝実証、肺虚肝実証

病気のメカニズム
(全ての病は精気の虚より起こる)

■すべての病は五臓の持つ精気の虚から始まる
■精気の虚に種々の病因(原因)が加わり、病理の虚が起こる
■病理の虚から寒熱が発生する
■発生した寒熱は身体各部の臓腑経絡に波及して様々な病症を現す

病気のメカニズム

同病異治(どうびょういち)、異病同治(いびょうどうち

・西洋医学と東洋医学とでは、病気に対する考え方・捉え方が根本的に違うので、当然治療に対する考え方も違ってきます。

西洋医学 同病同治 同じ病気・症状なら同じ治療を施す
異病異治 違う病気・症状なら違う治療を施す
東洋医学 同病異治 同じ病気・症状でも治療方法が違う
異病同治 違う病気・症状でも治療方法は同じ

・「咳」という症状を例にしてみますと、西洋医学の場合は一般的に咳止めが処方されます。これは大抵誰に対してもそうです。これの事を同病同治といいます。そして別の症状(例えば頭痛)がある時は別途鎮痛剤が処方されます。この事を異病異治といいます。

これに対して東洋医学は病名治療ではなく、個々の患者の体質から現在の状態に至るまでの情報を、独自の診察方法を用いて「証」を決定し、その証に基づいて治療を行っていきます。ですから同じ症状でも違う証という事がありますから治療方法も違ってきますし、違う症状でも証が同じなら治療方法も同じという事になります。

例えば咳を例にしますと、咳は肺が熱を受けたり冷えたりして起こる症状です。肺が冷えているという事なら肺虚という事なのですが、熱であればその熱は肝虚・脾虚・腎虚から起こった虚熱を肺が受けたものです。という事は咳一つ取ってみてもいくつかの証が考えられるという事なので、治療方法もいくつかあるという事になります。
(この場合は肺虚熱証、肺虚寒証、肝虚熱証、脾虚熱証、腎虚熱証があります)

それと、異病同治の一例として肝虚熱証を例にして説明してみます。

肝虚熱証とは、例えば労働や目の使いすぎ、何かを根気よく行なった事等により、肝の蔵している血が不足して虚熱が発生し、その熱が他の臓腑経絡に波及して様々な症状を現す証です。この熱が胆経に行けば肩こり・片頭痛・イライラ・めまい・腰痛などの病症が現れる可能性がありますし、膀胱経に行けば腰痛・背部痛・後頭部痛など病症が、胃や大腸に行けば食欲旺盛・便秘・痔疾などが現れる可能性があります。
もし、肩こり・イライラ・便秘・痔が同時にあってそれが肝虚からきた熱の為のものであり、一連の病症はその枝葉末節であると診断した場合は、まず一連の症状の元となっている肝の働きの不調をよくし、その上で各病症に対する治療を施していきます。

ですからこの肝虚という状態(この場合肝虚熱証)を治療する事が証に基づく治療です。違った症状(肩こり・イライラ・便秘・痔)でも本体は肝虚なので、同じ肝虚を治療するという事になります。

参考文献

日本鍼灸医学経絡治療
基礎編・臨床編   経絡治療学会編纂
古典の学び方(上) 池田政一著
伝統鍼灸治療法   池田政一著
難経真義      池田政一著
臓腑経絡からみた薬方と鍼灸
第一、第二、第五巻 漢方陰陽会編著
経絡治療のすすめ  首藤傳明著